蓮(特に「荷・芙蓉」)

ハスの漢字について(特に「荷・芙蓉」)

ハスの漢字

ハスの花をあらわす漢字は
なぜあんなにもたくさんあるのか??

それはそれほど「部分に細かく分けて」考える必要ないし要求があった、
ということだろう。
エスキモーが雪の状態を表す語彙のように。

7000年前の新石器時時代の遺跡から蓮が出ているという。
ふるいふるい植物である。
そしてとても大きくて、やわらかく、美しい。

ハスは、 芙蓉(フヨウ)、蜂巣のほか、
蓮・藕・荷 など この読みの漢字一字は多い 。
最も一般に用いられる「蓮=艸(くさ)+音符連(レン)(つらなる)」は
株がつらなって生えることから言う、とされる。


花と木の漢字学』 寺井泰明 著 (大修館書店 2000・6刊行)には、
「蓮・荷・芙蓉・藕…ハスの漢字の使い分け」という章があるが、
そもそもこの本の表紙がハスである。

なお、芙蓉如面柳如眉
芙蓉は面(かお)の如く」ほか、芙蓉が何度か出てくる
長恨歌 ( 白居易)であるが、
今、この字は別の花をさす。
それはアオイ科のフヨウ(芙蓉)であるが、
大言海によれば、
「芙蓉」とは一に蓮(ハチス)の花の漢名であり、
二に、木芙蓉(モクフヨウ)の略とある。


白居易は、あくまで 楊貴妃(8世紀)の容貌の美しさを
ハスの花に例えたのであった。
また、新田次郎の 「芙蓉の人」とは、
容貌というより、もっと違ったことをいっているようだ。
「日本の天気予報を正確にするには富士山頂に観測所が必要だ。
その信念に燃えて真冬の富士山頂にこもる野中到と
命を賭けて夫と行をともにした千代子夫人の行動と心情を感動的に描く。 」
(文春文庫 の解説・山本健吉)
献身的…崇高イメージと思ったのだが、
広辞苑によれば、富士山の雅称を芙蓉峰というので、
そちらからであろうか…。
広辞苑では、芙蓉は、一に「はすの花の別称。美人のたとえ。」
二に「アオイ科のの落葉低木。夏から秋に淡紅または白色の大型の一日花を開く。」
とある。

日本人には、お釈迦様のハスが一番に思い浮かぶものかもしれない。
「極楽のお釈迦様が蓮の池の真下に広がる、地獄の様子をご覧になっていた…」
という 芥川龍之介の『くもの糸』のお釈迦様のイメージもある。

仏教の生まれたインドでは、
極楽浄土はハスの花の形をしているという思想があった

仏教と切り離せない花であり、 極楽の花「蓮華」である。

釈迦(仏陀)は、生まれるとすぐに立って歩いたという
生まれたばかりの釈迦が歩きはじめると、 
最初に地面に足を着いたところからハスが生まれ、
北に向って七歩歩んだその足跡のひとつひとつから、
大輪の蓮の花が咲いた。
そして、釈迦は、蓮の花に立ち、
「天上天下唯我独尊」と、
第一声をあげた・・・・・と伝えられている。

「ハスは仏教を象徴する植物で、仏像の台座や仏具にあしらわれた。
極楽浄土に往生すればハスの花から生まれ変わるといわれる。」


ハスの花について調べてみると、
古代エジプトの聖なる植物ロータスにまでいきつく。
エジプトでも、ハスは聖なる花であり、また食物でもあった。
(しかし、吉村作治の『ファラオの食卓jからは
エジプト人が蓮をどのように食べたか、わからなかった。
レンコンを食べたのか? 蓮の実を薬として食べたのか?)

とにかく、 古代エジプトの美術を見ると
おびただしいハスの花におめにかかれるだろう。
宴会でロータスのレイを首にかけたりもしている…
そしてまた、ロータス文様という聖なる文様

「死者の書」アニのパピルスには、
ハスの花の間から顔を出す、死者の図」もある。
(あるいは蓮の花に変身する図…
死者は蓮だけでなくいろいろな神に変身する。)

アニのパピルス
Papyrus from the Book of the Dead of Any
大英博物館
(幅38.6cm、 長さ23.4m
第18王朝の前1450~1400年作
1888発見)

一説によれば「人頭のロータス」と呼ぶ。
エジプトでは本質は頭であらわされるのであるから、
蓮の本質は人間ということになる?


http://www.jhsf.or.jp/paper/hspaper/06_cover.html
http://nefer.hp.infoseek.co.jp/egypt/e_ani0.jpg
http://nefer.hp.infoseek.co.jp/egypt/egypt.htmでみられる図)

さて、日本です。
(永井)荷風という名前は
「ハス(荷)の上を渡る風」ということなんだそうだ。
(「常用字解」白川静)
音符「カ=何」の古い字には戈(ほこ)を荷(にな)う形があるという。
与謝野鉄幹も、ハスにはこの字を使った。
しのばず池のハスの歌があった・・

「荷担」という言葉があるが
人が棒のようなものを肩に乗せてかつぐのが「荷」
背に負うことを「担」という・・
・ で・・これを草の名として「ハス」と言うのは・・
草冠がついているのだから、まず
大きな葉をになった植物を意味した


今現在、 「荷」という漢字に、
ハスの意味がある
と知る人はそう多くはないのではないか。
漢字検定協会の「常用漢字辞典」 にある訓は「に」だけである。
一般にハスは、と表記する。
しかし、実際は 蓮は「ハスの実」という意味であるという。

「花と木の漢字学(寺井泰明著)」によると、
中国最古の辞書といわれる「爾雅」(BC1世紀)に次の記述があるという。
荷は、芙渠(フキョ)なり(渠にはくさかんむりがつく)
その茎は(カ)なり
・・(略)
その花はカンタンなり
その実は(レン)なり
その根は(グウ)な・・・・・・・・・・・・・・地下茎
その中は(テキ)なり(レンの中の実)
的の中はヨクなり

爾雅『ウィキペディア(Wikipedia)』

この辞書については、大言海の「芙蓉」の項にも挙げられている。
(釈草篇 「荷、…」)

現在は、
実という植物の一部をあらわすを「蓮」という漢字が、
全体を現す「荷」という漢字をすっかり追い払い、
蓮の花を表す「芙蓉」という漢字も
モクフヨウをさす言葉になっているようだ。

ここで、ハスという植物の表記をめぐって、みておくのも、
trivia=くだらない事[もの];(triviumの複数)ではないだろう。
(トリビア=「雑学、瑣末な」←フジテレビの番組 トリビアの泉~すばらしき無駄知識
ちなみに、単数形のtrivium とは、中世の教養学芸の三科目をさすという。
grammar, logic, rhetoric(文法学、論理学、修辞学)である。
いや、これについては、また別に論じることにしたい。

up2004/7/15

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(first updated 2004/10/25)

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