ゴッホの糸杉


Vincent van Gogh(1853 - 1890)


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糸杉と星の見える道 Road with Cypress and Star
Vincent van Gogh
1890年5月, Franceサン=レミでの最後の作品,
Oil on canvas
90.6 x 72 cm
Kröller-Müller Museum所蔵


ゴッホ自身によるこの絵の鑑賞


ゴッホ展の図録に紹介のある ゴッホの手紙

ゴーギャン宛下書き@オーヴェール
「一本の糸杉とひとつの星を描いた絵」

〔一本?〕


夜空に輝きのない月
それも
地球が落とす暗い影の中からかろうじて現れる細い三日月


誇張された輝きをもつ星がひとつ
ばら色と緑色の甘美なきらめきを
ウルトラマリンの夜空に放ち、

その空を雲が流れてゆく。


〔雲?〕

地上には、
青の高い黄色の葮竹が道端に生えた街道。
その向こうには低い青いアルビーユ山脈。
窓にオレンジ色の光がともった古い宿屋。
そして
とても高く直立する黒々とした一本の糸杉。
街道には白い馬にひかれた黄色の馬車と、
夜遅くで出歩くふたりの男。

実にロマンティックだといっても良いが、プロヴァンス的でもあると思う。
(書簡643)
〔葮(むくげ?)〕

テオ宛 描いているころの手紙@サン=レミ
ひまわりの絵のようなものを糸杉で描いてみたい。

〔ひまわりの絵のような?〕

線もプロポーションも、エジプトのオベリスクのように美しい。
しかも緑がことのほか見事だ。

それは
陽がふりそそぐ中の黒いしぶきだが
最も興味深い黒の調子のひとつで
ぼくが思い描くとおりに捕らえるのがもっとも難しいものだ。
その際、糸杉は青い背景の前で、
いや、むしろ青の中で見なくてはいけない。

(書簡596)




糸杉のある風景!
ああそれは容易なことじゃない。
美しいものをつくるには僕らの中にはないもの、
天からの一条の光が必要なのだ
(書簡625)




近代絵画」のゴッホの章



麦の黄金色に、彼の心が、いよいよ高鳴れば、
埃にまみれ、色あせた、とるに足らぬ雑草の線が、
彼の葦ペンを否応なく惹きつける。

ゴッホの絵は、奔放な色彩だけでできているのではない。
色とデッサンの格闘によるのである。
彼の傑作を眺めていると、
彼の明察は、両者の矛盾によって緊張を願っていたという風にさえ思われてくる。

糸杉の緑と黒は、デッサンに絡みつかれて、身を捩じながら、
果てしない天に向かうようだ。

色は画面の到るところで線に捉えられ、苦しげに、
円や弧や螺旋や渦巻きのアラベスクを作る。
西洋における糸杉の象徴的な意味ついて

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