漢字一字


風(フウ)

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 「風」の字についてであるが、この一字は、白川静『字統』普及版(1994年)の前がき部分で取り上げられた唯一の漢字である。
 『字統』は字源の解明を試みた書で、その、字の初形初義を明らかにする研究には、三十年沈潜したとある。
原初の文字には、原初の観念が含まれていて、「神話的な思惟をも含めて、初めて生まれた文字の形象は、古代的な思惟そのものである」として、その例として挙げられている。

風は、もと鳳の形に書かれ、鳥形の神であった。
四方にそれぞれ方域を司る方神が居り、その方神の神意を承けて、これをその地域に風行し伝達するものが鳳、すなわち風神であった。
風土、風俗 のように一般的なものより、人の風貌・風気に至るまで、すべてはこの方神の使者たる風神のなすところであった。
風の多義性は、風という字が成立した当時の、風の古代的な観念を内包するものとして、そこから展開してくる。このことは、原初に成立した文字の多くについて、いう事ができる。
『字統』普及版のまえがきには、
〔字統〕が、白川文字学の出発点にあたるもので、字源の解明の研究であること、
〔字訓〕は、漢字に国語としての働きを与える方法であった「訓読み」=国語としての訓義的理解の研究(〔記〕〔紀〕〔万葉〕の用字法) であること。
その二書の基礎の上に、 〔字通〕で、
連語としての語彙による漢字文化の全体を体系化することを試みた‥と書かれている。
漢字は過去の文化遺産の全体に連なり、文化の連続性を保証するもっとも重要な方法である、と。
以下、『常用字解』なども参照して、この一字の広がり、文化を見ます。


更新日  2022年8月17日(水)

「風」 かぜ・かざ・ならわし
「かぜ」の意味は、空気の動きによってその意味を表現したのではなくて、神聖な鳥の姿や竜のような姿をした霊獣によってその意味を示しているのである。
古い時代には、風は鳥の形をした神、風神と考えられ、
その風神が各地に出かけて行き、人びとに影響を与えて、
風俗(その地域独自のしきたり、ならわし)や
風物(その土地独特の景色や産物)が生まれると考えられた。

『常用字解』


〔常用字解〕より

「神聖な鳥であるので、冠飾りをつけている」と・・・。
天上には竜が住むと考えられるようになり
鳳の中の鳥をとり、虫を加えて風の字が作られた、と。


〔字通〕より


形声(鳳形の鳥の形に声符「凡」) 

風神
(風神がその地に風行して風紀・風土を成す)

「学研新漢和大辞典」藤堂明保・加納喜光


〔学研新漢和大辞典〕より

こちらは、ぶるぶると揺れ動くという意味が強調されている。
kanjipedia.jpでは、以下の意味が挙げられている。

①かぜ。かぜが吹く。「風雪」「疾風」
②かぜのたより。うわさ。「風聞」「風説」
③なびかせる。教え。「風教」「風靡(フウビ)」
④ならわし。しきたり。「風習」「風俗」
⑤おもむき。さま。
(ア)すがた。かたち。「風体(フウテイ)」「風格」
(イ)けしき。「風景」「風致」
(ウ)傾向。様式。ふり。「気風」「作風」
⑥病気の名。「中風」「痛風」
⑦ほのめかす。それとなく言う。「風刺」「風諭」
⑧詩経の六義の一つ。

続く(20220817)

以下20220927

風・鳳

2011年第32週

(以下引用)
「風 (ふう)」は鳳形(ほうけい)の鳥で表され、それは神の使者であった。
上帝(じょうてい)の命(めい)をあまねく伝えるために、東西南北、それぞれの地方にある神々も 皆鳥を使者とし、
その往来は風のそよぎとして感知された。 風土、風紀、風俗は、みなその地の神々の意志によって形成されるものとされた。

再掲「漢字暦」201108

風:見えないけれど感じられる、空気の流れ
風化:空気にさらされてものが変化すること

・・風(風をはらむ帆)と虫(舞い上がる竜)を組み合わせた文字

颯爽の颯・・風が急に吹く
飄々の飄・・風が舞う

颱、颶・・激しい風

漢字ときあかし辞典

「花信風」、「風光」と「風景」

『漢詩をよむ 詩人が愛した花の世界 春夏編』赤井益久著(NHKカルチャーラジオテキスト2022年4月刊)の最後に、「中国の花便り」という、風にまつわる話がありました。(p222~227)
さすがに詩的なその話を追記します。
以下に抜き書きします。20220929

〇「二十四番花信風」
〇「風光」と「風景」
〇「風」の力

〇「二十四番花信風」(「花の便り」である風)
古く中国では、花の開花を知らせる風を「花信風」と呼びました。
二十四節気のそれぞれに、「三番」の花を当ててている。
清・呉景旭(ごけいきょく)撰『歴代詩話』(巻六十)
例(小寒)梅花・山茶・水仙 (ウメ・ツバキ・スイセン)

植物の開花と風との関係は密接で、漢詩にも多く言及されている。

〇「風光」と「風景」
大自然のもたらす景観を「風光」あるいは「風景」というように、「風」という漢字を使って表現しています。
風は目に見えませんが、物を動かし、伝播する力があると昔の人は考えました。季節を運ぶ力もあったと考えたのであります。

「風景」は、じつは「風と光」という意味で、「景」(ひかり。影にも通じます)は、「光」という意味です。
この言葉は中国では晋代(三世紀以降)のころに使われ始め、次第に定着を見たようです。

「風光」という言葉も、注意しなければなりません。と言うのも、「光」はただ単に目に見えるものだけではなく、温暖の感覚をも含んでいたと考えられ、実態を表す外見、姿という意味の他に、そのものが放つ光、明るさ・温かさを言い、あるいはその明るさで照らされている場所をも意味すると考えられます。
東晋・陶淵明、南朝宋・謝霊運などの詩人が、契機を成していると考えられます。

唐代になると、「景」はいわゆる
{light}の意味を失って,[view}あるいは{scenery}の意味として使用され始める。
唐代中期になると、今日の「風景」「景色」といった意味をもってきます。従前使用されていた「山水」「林泉」等の言葉とは一線を画する表現力をもった詩人らが輩出されたからであると考えられます。

「景」の意味は異なっていきますが、「風」の意味は大きな変化がなく使われていきます。
日ごとに吹く風に季節の推移や開花を促す温かさを感じ取ったのは、詩人の感性と言えるでしょう。

景は部首「日」・・本来は太陽の輝きを表す。
転じて”太陽によって照らし出された眺め”を表し、
更に広く”目に映る状態”を意味するようになった。(漢字ときあかし辞典)

〇「風」の力

花を開かせるのは、多く「春風」であり、また花を散らせるのは「秋風」です。 春の到来を「春来る」、、また春の終焉を「春を送る」と擬人的に表現する詩人たちは、そこに人知の及ばない力を認めたからこそ、風の力を敏感に感じたのであります。
春の花を咲かせる風として意識されました「花信風」ですが、春以外の季節の風を思い描く時に、大地の息吹、天地の呼吸とも言うべき「風」が実は生命力の源であることに気づかされます・

風の美術

Ejiri in the Suruga province
葛飾北斎 冨嶽三十六景 駿州江尻

1831-34年(天保2-5年)版行。全46図
https://artexhibition.jp/

 

Tawaraya Sōtatsu - The Gods of Wind and Thunder (right screen)
Tawaraya Sōtatsu - The Gods of Wind and Thunder
風神雷神図(建仁寺蔵)寛永年間(1630頃)

風神(wikipedia)


十二天像風天図(江戸時代、英一蝶・画)

風天(wikipedia)

風の詩文

風がおもてで呼んでゐる(宮沢賢治)
『風の又三郎』(Amazon)
「雨ニモマケズ/ 風ニモマケズ」

立原道造『萱草に寄す』(1937年,風信子叢書)

堀辰雄『風立ちぬ』(1938)
ポール・ヴァレリーの詩『海辺の墓地』の一節"Le vent se lève, il faut tenter de vivre."の一節は、
現代語訳としては「風が立つ、生きようと試みなければならない」となるが、堀は古風に「風立ちぬ、いざ生きめやも」と訳した

「風立ちぬ」 (2013年のアニメーション映画)
宮崎駿監督、スタジオジブリ制作:キャッチコピー「生きねば。」英語版のタイトルは「The Wind Rises」

『風と共に去りぬ』( Gone With the Wind):、マーガレット・ミッチェルの長編時代小説。(1936)

タイトルは、アーネスト・ダウスンの恋愛詩「シナラ」の詩の一句から引用したもので南北戦争という「風」と共に、当時絶頂にあったアメリカ南部白人たちの貴族文化社会が消え「去った」ことを意味する。
wikipedia
スカーレットの最後のセリフ:「Tommorow is another day」(明日は別の日)は 「明日には明日の風が吹く」と翻訳 されてきた。

(Ernest Christopher Dowson, 1867 1900)アーネスト・ダウスン作品集

風の名の植物

フウチソウ(風知草)
フウロソウ(風露草)
ヒヤシンス(風信子)
セイヨウフウチョウソウ(西洋風蝶草クレオメ) 

アネモネは、英名に「Windflower」という別名があるように、ギリシア語で「風」を意味する「anemos」に由来

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