身体装飾

文身・刺青

まず、タットーについてみましたが、これより
いれずみの文化誌 」を読む」
by小野友道
(著者は1940年生まれの皮膚科のお医者様の由)

「いれずみの文化誌

目次


第一話   谷崎の『刺青」  皮膚から肌への一瞬
第二話   病理学者ウィルヒョウといれずみ  センチネルリンパ節概念の元祖
第三話   桃のいれずみ 霊力、性そして龍
第四話   イ草作業のつらさと「そらうでいれずみ」
第五話   ヘナによるいれずみ
第六話   針突  南嶋の女のいれずみ
第七話   入れぼくろ  客と遊女の駆け引き「心中立て」
第八話   背中のいれずみ  五社英雄の決意
第九話   細川藩の除墨帳  社会復帰のための施策を取り入れた『刑法叢書』
第十話   ニコライ皇太子のいれずみ  両腕に龍の彫り物
第十一話  三島由紀夫のいれずみ  薔薇か錨か、弁天小僧か
第十二話  いれずみ奉行  遠山桜か、生首か
第十三話  龍の彫り物  北京は四合院で想う九紋龍史進
第十四話  風呂といれずみ  虎彦も、芙美子も驚いた
第十五話  女のいれずみ  刺青に通ふ女や花ぐもりby日野草城
第十六話  カボシといれずみ  世界で最も有名ないれずみ男
第十七話  顔のいれずみ 
第十八話  東大のいれずみ標本  背中の「桜姫と清玄」も彫り物絡み
第十九話  永井荷風のいれずみ  「こう命」「壮吉命}
第二十話  いれずみ大臣  小泉又二郎逓信大臣
第二十一話 唐獅子牡丹
第二十二話 蜘蛛のいれずみ  「さがり蜘蛛」と「のぼり蜘蛛」
第二十三話 絵身いれずみ  その極みはMimi-nashi-Hoichi
第二十四話 スポーツ選手のいれずみ 吉葉山の覚悟
第二十五話 ベルツのいれずみ  いれずみは着物である
第二十六話 戦国時代のいれずみ 島津勢五百余人、討死前後その腕にいれずみ
第二十七話 スティグマとしてのいれずみ  アウシュヴィッツの囚人番号
第二十八話 梅のいれずみ  篤志解剖第一号・遊女美幾
第二十九話 いれずみは他人の手を借りた自傷行為  THE ILLUSTRATED MUMの場合
第三十話  文身文化  白川静の漢字の世界
2010年9月刊の新しめの本で、かつ、大塚製薬工場発行の『大塚薬報』誌に連載したものということで、読みやすい本であった。
http://homepage3.nifty.com/yoshihito/irezumi.htmにあるように いれずみ=がまんという別名があった、という。
以下に抜き書きを少々。

白川静の話は
第十七話  顔のいれずみ 
第二十三話 絵身いれずみ 
そして最後の 第三十話  文身文化  白川静の漢字の世界、に取り上げられている。
(P136)
(白川静によると)文身には三つある
瘢痕いれずみ、針で刺すいれずみ(入墨、黥涅げいでつ) 一時的に文様を描き加える絵身(かいしん)
定義
「何らかの儀礼的な目的をもって加えられる身体装飾をいう」
「死体を聖化するには、もとより絵身の方法がとられたであろう。 それはおそらく鮮やかなる朱色をもって、その胸部に加えられたものと思われる。 ・・・・分身とそて心という形が胸に記される・・・」
文身は屍体などに書かれた文字そのものであるというのである。

キャプテン・クックの航海に随行した画家シドニー・パーキンソンが描いた マオリ族酋長の顔一面の芸術的ないれずみ
(『Discorated Skin.A World Survey of Body Art』より )

白川静によると「顔は国語では〈かお〉であるが『説文』には〈眉間の間なり〉と しているように、それは〈ひたい〉をいう。〈ひたいを中心として、、その部分を顔面という。
そもそも顔の文字そのものがいれずみと切り離せないという。
「文」の文字が「顔」にも見られるが、文には「いれずみをする」の意もあり(大漢和辞典)、
「厂」がひたいの側面形をしめすとし、 〈ひことは、ひたいに文身の美しい文様を加えたもので、、 『説文』には〈美士のぶんあるもの〉という。立派な男というほどの語である」
「産」もまた文に従う 、それは〈アヤッコ〉の風習に残っている
(お宮参りの赤ちゃんの額に墨か紅で×を書く)
『魏志倭人伝』・・男子は、皆入れ墨をしている
弥生後期3世紀・・既に中国ではいれずみは刑罰の一種だった

礫川全次『刺青の民俗学』
江馬務『現代風俗便覧』
いれずみは、 民俗学、風俗学を超えて、芸術・犯罪学・文化人類学、日本古代史、医学の研究対象となりうる
白川静は「文」いう文字は、「人間の創造した秩序や価値を言う語である」という。 中国では、「多くの線や色によって構成される美しい文様」を言う 「文身は成果と加入の儀礼に用いられる身体装飾」
「罪」はもと「辠」=自(鼻の象形)に辛(いれずみを加える針の形)
「入れ墨」=江戸時代もっぱら刑罰としてもちいられる言葉。
「刺青」谷崎が使い始めるまで「刺文」が使われていた。 「刺青」というのは中国にあった言葉だが、今は中国では使われていない。

病理学者Rudolf Virchowセンチネルリンパ節概念の元祖
皮膚にはいったいれずみの色素の移動・・癌の治療、リンパ節転移に関する重要な概念
カボシMoritz Kaposiの皮膚病アトラスAtlas of Skin Diseasesの中で書かれたいれずみの男コンスタンティン(1827年生まれ)388個のいれずみ

刺青の図柄としてよく選ばれたものが「桃」だったという。 女の名前、人物に次いで多かったという。
なぜ桃だったかというと、桃の仙女西王母伝説のように、「回春力」
性的なもの

神経痛の治療のいれずみ
1991年発見のアイスマン のいれずみ・・民族医療ではないかとの指摘

若者のファッション
バリ島のヘナ・タトゥー
ボディ・ペインティング、ボディ・オーナメント、シュードタトゥー(偽いれずみ)
植物によるいれずみ
ヘナhenna ミソハギ科(指甲花)
インドではMehandhi 花嫁の手足を飾ってきた
5000年以上前からgiving treeとして健康・身体装飾・化粧あるいは悪霊除け使った
クレイパトラもマニキュアに使った (オレンジ赤の色調)
ブラック・ヘナはヘナに何らかの物質をまぜたもの
植物にするいれずみ
タラヨウ モチノキ科の常緑樹 ジカキシバ 「葉書の木」「多羅葉タラヨウ」
平成9年から「郵便局の木」に

琉球の女の自慢・・手のいれずみ。針突(ハヅキ)
アイヌの女の口の周りのいれずみ≪ヌエ≫

古代にあったいれずみは奈良朝以降室町末期までに全く絶えた
江戸の寛永時代に入れぼくろとして突如記載が現れる 「起請彫(きしょうぼり)」の一種
植物のほくろ:パピオペデルム=ほくろとも呼ばれる(花の中心に黒っぽい斑点が並ぶ)

実在しない龍がなぜ十二支にあるのか
中国では「辰龍」という
辰の字の原義と龍の関係は中国でもなお学会の統一的見解はないらしい。(p79) 中国人にとっては、龍は「高貴的吉祥物」
中国=「龍的国度」
龍とは
多くの動物の複合体
トーテムから神へと昇華したもの
蛇のような体、鱗でおおわれ、背中に刺のような毛がある。 四本の脚はトカゲ、足と尾は虎、指と爪は 鷲、頭は馬かラクダ、口と歯は鰐
目は蝦(一説に鬼)、鼻は人間、耳は牛、角は鹿、髭は鯰
by『中華龍』(Cang-Shi 2000年中国電影出版社刊)
彫り物の主役

峨眉山、天台山と並んで仏教三大霊場の一つ五台山を浄土とする文殊菩薩 は獅子に乗って御幸したとされ、そこには牡丹が咲き乱れている。
唐獅子は平安時代に仏教と一緒に日本に来たらしい。 百獣の王と百花の王の組み合わせ。唐獅子牡丹はすでに十二・三世紀のころから定着していたようである。
「南総里見八犬伝」と唐獅子の関係
高田衛「八犬伝の世界―伝奇ロマンの復権 (1980年) (中公新書) 」に見事に詳しい、
馬琴は見返し絵に〈犬〉の聖なるもののシンボルとして〈狛犬〉を描かせている。
馬琴は挿絵について「文外の図、図外の文」といっている
ボストン美術館蔵 葛飾北斎の「唐獅子図」

顔面装飾

顔面装飾

『悲しき熱帯』(原題:Tristes tropiques) 文化人類学者クロード・レヴィ=ストロースの著書よりぬきがき(1955年刊Wikipedia
上巻の第5部は「カデュヴェオ族CADUVEO」であるが、女性の顔面装飾の写真と図案が載っている。

その最後の「原住民社会とその様式」で詳しく述べている。 p281 「貴族は彼らの地位を、ちょうど紋章に当たる型を使って、体に描いた絵や入れ墨によって誇示していた。」・・
彼らの顔、そして時には体全体が、繊細な幾何学モティーフと互い違いになったアラビア風模様(動植物などのモティーフを直線や曲線の幾何学的な図柄に組み合わせたもの)の網でおおわれている。
p291 かっては、モティーフは入れ墨されたり描かれたりしていた。しかし、後の方法だけが存続している。
初めは無色だが酸化すると青黒くなるジェニパポの汁に浸した細い竹のヘラで、生きた人間の上に、モデルも下書きも目印もつけずに即興で描いていく。
両端が渦巻きで終わっている弓型のモティーフで上唇を飾る
ついで縦に線を引いて顔を分け、ときには横の線でも切る。 顔は4等分され、刻まれ、あるいは斜めにさえ切られ・・、それからアラビア風模様で自由に飾られる。 洗練され、非対称ではあるが均衡のとれたこの構図は、どこか一つの隅から出発して始められ、躊躇うことも消すこともなしに終わりまでつづけられる。


p292 今日では、単に楽しみのためにお互いに絵を描きあっている。 貴族のカーストの人々は、額にしか装飾を施さず、平民だけが顔全体を飾っていた。
年老いた女たちが・・とサンチェス・ラブラドールは書いている・・こうした模様を描いてもらうために時を費やすことは、稀である、老女たちは、年齢が顔に刻んでくれた模様だけでたくさんだと思っているからである」
「人間であるためこの習俗が存続しているのは、性的魅力への配慮からだと説明してよいことはほとんど疑いがない。
絵画による外科手術
 カデュヴェオ族の女の絵画芸術
 カデュヴェオ族模様の独自性はモティーフ相互の洗練され体系だてられた組み合わせ方に基づく
他に例のない発達、
2種の様式を用いて製作する、角ばった幾何学的な装飾と、と曲線の多い自由な様式と。 図柄と地がほぼ等しい面積を持つ(陽画と陰画と二つの構図になる)対称性と非対称が同時に用いられる。・・
トランプの様式をさらに微細な点で想起される
機能に基づく対象性、役割に応ずる非対称性
顔の装飾は、個人的に人間であることの尊厳を与える
身分の序列を表現する

化粧は決して到達できない黄金の時を叙述する神聖文字であり、法典がないので、クィーンたちは身を飾ってその時を祝福するのである。


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first updated 2005/09/13