聖なるものさし


尺…身体尺



ものさしというものは、神聖なものだという。

ものさしというのは、元は「身体尺」で、その人の身体のサイズによってまちまちであった。その規格を統一するのが王の神聖なる権限であった、という。

一説によれば、 メソポタミアの王権の象徴はものさしであり、王は神から神殿を建設してもよいという許可を与えられた証拠として、神から直尺と巻尺を手渡しされている浮彫(※1)がメソポタミアの各地でみつかっているという。
王権の象徴というと、日本では「三種の神器」(※3)であるが、そのひとつは、「八咫の鏡」。

これは、白川静の「常用字解」の「尺」の項にも出てきます。「八咫の鏡」はサイズを決めることに関係しているとはいえませんが、尺の字に関係する「咫」が入っています。

「尺」の字について、「常用字解」の解説を見ると、……尺の字は象形文字で、手の指の親指と中指とをいっぱいに広げて、下向きにした形。上部は手首の部分、下部の八の部分が両指を広げた形。
一本の指の幅が、寸で、寸の十倍の長さが尺である。

それで、「尺、十寸の長さ、ものさし、尺の長さのもの、小さい、わずか」の意味となる。わが国の古語では『あた』といい、「八咫(やた)の鏡」(大きな鏡。三種の神器の一つ)のようにいうが、寸に当たる言葉はなく、四本の指の幅を「つか」)という。……[白川静]

ちなみに一般的国語辞典によると、……尺という単位は古代中国の殷の時代に定められたとされている。
「尺」という文字は親指と人差指を広げた形をかたどったものであり、元々は手を広げたときの親指の先から中指の先までの長さを1尺とする身体尺であった。親指と人差し指は直角になり、親指と人差し指の間の寸法を測ると約15cm、ほぼ5寸になります。かつての日本では、これを咫(あた)といい、ものを計る単位のひとつとして使わ れていました。 2咫で1尺。親指と人差し指を交互に動かして1尺、2尺、3尺と、ものの長さを計るのに使っていたそうです。
尺取り虫も、ここから名付けられた。
……

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さて、尺貫法というのは、今は役割を終えたもののように思っていました。しかし、サッカーの日本チームのヤタガラスは「八咫烏」。また、お箸のサイズについて、咫(あた)という語が生きているらしいことを最近知りました。(※2)

箸を売っているインターネットサイトの説明ですが、箸は昔からひと咫半(ひとあたはん)と言い、親指と人指し指を広げた長さの1.5倍が、その人の身体に合った長さとされています。長さが本人身長のちょうど十分の一に相当し、箸はその一咫の1.5倍が最適な長さだそうです。「夫婦箸も、身長比から割り出されている」という。「昔からの決まりの長さが現在も主流で売られていて、普通は24cmのようです。身長÷10×1.5=箸の長さで、身長が160㎝ 用です。」
このような調子で紹介されています。弁当箱などの箸が小さい時がありますが、確かに食べづらい。体、手のサイズに合わせるというのは、いかにもです。

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人間の身体のサイズを尺度とするものさし

さらに、「尺の10分の1にあたる寸(約3cm)は、手のひらに乗せる碗は直径4寸(12cm)、握ってもつ湯飲みやそば猪口は2寸5分(7.5cm)、5本の指でつかんで回す茶壷のふたは3寸半(10.5cm)と明確に表記ができ、ものづくりに便利な単位だ」という。

これらは、今日では「ヒューマン・モデュール」と呼ばれ、衣服や道具、住まいなど日常的に人間が使うものをつくる場合に、基本的な尺度として用いられているという。つまり、このようにして、地球のサイズ大きさを尺度とせず、人間の身体のサイズを尺度とするものさしは、なお生きている。

加藤道理著『字源物語―漢字が語る人間の文化 (漢字・漢文ブックス)』(明治書院)によれば、ものをはかるのは手だけでなく、足でもはかり、歩くとは「先に左足を踏み出し次に 右足を踏み出す動作」であり、一歩とは六尺だそうだ。

日本人は手でものを計りイギリス人は足で計るといわれています。イギリス人の単位のフィートは、足の裏の長さだった」そうです。(1m≒3尺3寸 )一般的英語辞書で、足(フット)からの派生語として確認できますが、改めて言われてわれてみると、そうなのかと思います。 エジプトのヒエログリフや美術装飾をみていると、肘から先の腕の絵がある。キュピッドといい、これが重要なものさしであったようだ。キュピット尺という。

大丈夫」というも身体尺に関係あるようです。(前出『字源物語』)身長一丈=十尺の男に大という美称をつけたようだ。因みに漢和辞書によると「丈夫」の語源は中国古代の周の制度で、男子の背丈が一丈に達した時に成人男子と認められたこと由来しており、責任と自覚を以って行動が出来る一人前の男のことを意味しています。

対語として、「六尺 (りくせき)の孤」というのがあります。身長6尺のガキンチョというわけだが、15,6才頃のコドモをさすという。しかし…生意気でガキンチョだけどその年頃は身長はオトナですね?少し語感違うかもしれません。

最後にカタカナ語の方を見ると、シェイクスピアの「尺には尺を」は原題は、Measure for Measureで「尺には尺をもって報いるのが不変の法の精神だ」という台詞があり、「自分でしたことは自分にとばっちりがくる」

ここでのメジャーというのはメジャーリーグのメジャーmajor(より大きい)ではなく、[measure <ラ metiri(測量する)] ものさし,はかり.(判断や評価の)基準,尺度。
似たような語にはスケールというのがあります。[scale<ラ scalae(階梯)]日本語にすると、尺がメジャーで尺度がスケールで分けていいという感じでしょうか。

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「聖なる巻き尺」の検証

※1
ペルシア美術史」 深井 晋司, 田辺 勝美 (著) 吉川弘文館 (1983/01) より
イランの先史時代
(前3000年期後半から前2000年期前半に製作されたレリーフ)
Anubanini bas-relief
女神イナンナInanna
神聖なる王権を象徴する環(巻尺?)を国王に授与する図像

アヌバニニAnubanini王の戦勝記念碑摩崖浮彫
Rock relief of Anubanini, Sar-I Pul, Iran, ca. 2100-2000 BC.
BC2000年前後
(イラン西北部サル・イ・ブル・ズハブhttp://www.persia.co.jp/

シュメールの王権の象徴について(→)は、前田 徹著『メソポタミアの王・神・世界観―シュメール人の王権観』(2003/11)p21 表2「王権を授与する神」 によれば、 杖、冠であり、物差しと巻き尺という語は出てこない。 しかしイエンナ神が王権を授与することは、「武力による領土拡大が含意される」とある。・・


『ウィキペディア(Wikipedia)』ササン朝の最初の王(敵の王を乗馬して踏みつけている)が受け取っているものは
リボンを付けたディアディム(cydaris)としている。
それを手渡してしているのは神でなくダリウス大王の霊

Ardashir receives the ribboned diadem (cydaris), the symbol of kingship, from the spirit of Darius the Great of the Achaemenid dynasty.  Under the horse of the King Ardashir lies the last of the Parthian Kings, Artabanus.


http://www.heritageinstitute.com/zoroastrianism/east/east2.htm

We notice the tassels even when the king is wearing a crown.

この時代はすでにAD4世紀・・ディアディムを即王冠と訳すのはやめた方がよさそうだが・・
Taq-e Bostan - High-relief of Ardeshir II investiture

Shapur II investiture at Taq-e Bustan: the "God Mithra emerges from a Lotus flower, crowned by a lightning sun, holding the Barsum (wood bundle symbol of divine power). At the right side, god Ahuramazda wearing his classical crenellated crown gives the king the Farshiang (ribboned ring symbol of royal power). ... their heads are on the same level suggesting the king is equal to gods.

ササン朝の王がミスラ神から受け取っているInvestiture of Ardeshir I (224/6-241 CE), founder of the Sassanian dynasty Ardeshir receives the ring of kingship (farshiang/cydaris) from an individual carrying a barsom - likely a priest (magus) or senior family memb
アッカド王ナラム・シンNaram-sin(B.C.2291-2255)
戦勝記念碑摩崖浮彫・・ イランの王権神授図の嚆矢
Bisotun’s UNESCO dossier
http://www.mehrnews.com/en/NewsDetail.aspx?NewsID=364411
(the Persian king Darius I the Great (522-486)
Anubanini bas-relief inspires Darius in Bisotun
後世の変化…
アフラマズダ神から王へ
http://en.wikipedia.org/wiki/Image:Faravahar.png
http://www.shushu.co.jp/bnf/hyousi07.html
ディアデムの付いた環…アフラマズダ神the supreme god Ahuramazdaによる王権神授を示す

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ディアデムの付いた環

精神のエクスペディシオン―学問の過去・現在・未来〈第2部〉
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/1997Expedition/03/030900.html
ディアデム(正当な王位の標識)

ウィキペディア(Wikipedia)
A diadem is a type of crown.

http://www.s-ivy.jp/attribute.html
=== 引用 ===
「ヘレニズム期以降の王は例外なく ディアデム ※Diadem:(鉢巻き状の帯)王権の象徴で頭の後ろで結び余った部分を下に垂らしている。」

=== 引用終了 ===
巻尺?と王冠??

日本のものさし-中国との関係

※2
厳密には、
「あた」というのは「尺貫法」とは別のものとされるようだ。

中国起源の「尺貫法」に含まれない 日本の古語ということである。
しかし、下記の日本計量学界のHPによれば

中国・四川省の三星堆遺跡から発掘された青銅製の立人像
人の身長が10尺、全長が15尺で、 1尺の長さは17.3cm。
…成人女性の手の長さ(中指から手首までの長さ)、
または親指と人差指をひろげた長さに相当。
(日本のものさし-中国との関係)
紀元前1000年以前の日本の遺跡で、
長さの単位二つを統計的な方法で検出

「一つは平均値17.3cmで、残りの一つはこの4倍の69.2cm。」
現在では紀元前一万年(今から一万二千年前)まで遡る
当時の言葉や文字は不明ですが、
中国の後世の文字の咫(シ)に相当し、
日本の古代の発音では、「アタ」に相当する
…ということは「あた」は尺と同じサイズである。
また尺の長さは世の中が乱れるたびに長くなったという。
現在は
尺の長さ 17.3cm→30.3cm

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この「身体尺」のことは、
王の腕の長さで尺度が変わってしまうと本にあったのが、
ほぉ~~~~~ ということでみてみた。 その本は、古代エジプト美術手帳―図説 古代エジプト誌」(松本 弥著)。
日本の身体尺とエジプトのキューピッド(cubit)で尺の考えと似ているのにも驚いた。
実際は驚くまでもなかったのだろう、
しかし、 エジプト美術を見、象形文字 ヒエログリフを見るとスリリングである。

エジプトの壁画やヒエログリフ
メフ

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日本の物差しの歴史

資料として、もっと
日本の物差しを倒序的に見ておくと、
1966年(昭和41年)メートル法完全実施

1886年(明治19年)メートル条約加盟

中国より尺貫法伝来 以前 (記紀時代)

尋(ひろ)
両手を一杯に広げた長さ
明治時代からの定義は6尺
1.8288 メートル
→これでは平均身長より大きすぎ、 感覚あわないので、
5尺(約1.515メートル)とすることもある。
※エジプト人の身長は170センチであったらしい。
「ひろげる」 尋…英語では、ファゾム(fathom)と同じ定義、
ヤード・ポンド法における長さの単位
ファゾムも水深を測るのに用いられる。
1ファゾム=6フィート(1.8288 m)

Wikipediaによれば
語源は古英語で「いっぱいに伸ばした腕」という意味のfathmに由来する。
握(つか)
=バーム
(エジプト)
手を握ったときの親指をのぞいた4本分の幅
古代エジプト語(シェセプ)
「つかむ」 柄=つか
弓矢の長さをいうときは「そく」とよむ
伏せ(ふせ)
= デジット
指一本分の幅

古代エジプト語(ジェバァ)
弓矢の 「十二束ニ伏」
咫(あた) (上述) あた=手を開く
あ…「ア(開)く」
手=「手折る」のように「た」ともよむ
寸法を「あたる」=(はかる)

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三種の神器

※3 

天叢雲剣(あまのむらぐものつるぎ

瓊曲玉(やさかにのまがたま)

鏡(やたのかがみ)

ちなみに この「八」は実数ではなく、
末広がりでめでたく[大きい]という意味であるとされる。

尋常」という言葉「尋」という漢字も
「左」「右」「寸」を合成したもの

尋(じん)
常(じょう) 2(倍)

この2つを組み合わせてできたのが「尋常」という言葉で、 並み、普通であることを意味する。
咫尺の間」という言葉・・・咫尺の間、ということばがある。これも尺に関係する言葉。

キュービットという語にある 「ビット」というと
すぐに思い浮かべるのはパソコン用語であるが・・

コンピュータが扱う情報の最小単位。「binary digit」を略したものが語源と言われる。2つの選択肢から1つを特定するのに必要な情報量が1ビット

http://e-words.jp/w/E38393E38383E38388.html

古代エジプト美術手帳―図説 古代エジプト誌」(松本 弥著)より補足すると
デジットの倍数 メートル法
デジット 1.87cm
バーム 4(倍) 7.5cm
スモール・キュービット 24(倍) 45cm
ロイヤル・キュービット 28(倍) 52.5cm

スモール・キューピットを1辺とした正方形の面積は
ロイヤル・キューピットの直径を持つ円の面積に等しい

スモール・キュービット・・ ギリシア時代[大工のキューピット]と呼ばれていた
物差しの46.7cmに近い
公式の物差しはロイヤル・キュービット
(ラメセス4世王墓の設計図パピルスで、1キュービットは52.31cm)

ニュートン説・・ニュートンは、

スモール・キューピットは庶民の腕から
ロイヤル・キューピットは王の上から取ったという説を唱えた

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エジプトの数学

最近の本です。
NHKスペシャル「知られざる大英博物館」 古代エジプトの数学問題集を解いてみる」 著者名
三浦 伸夫/著NHK出版201206刊 「3500年以上も前にエジプトで書かれた、大英博物館所蔵の数学テクスト「リンド・パピルス」。この「リンド・パピルス」の数学内容を解説するとともに、それを通じて古代エジプト人の生活文化の一端を紹介する。」というもの。 著者は1950年生まれの神戸大学大学院国際文化学研究科教授。専門は科学史、比較文明論とのこと。
その中に以下の図がありました。



http://en.wikipedia.org/wiki/Palm_(unit)
ウィキペディア(Wikipedia)の身体尺の項目は26項目ある
http://en.wikipedia.org/wiki/History_of_measurement 計量の歴史の項に

Early Babylonian and Egyptian records and the Bible indicate that length was first measured with the forearm, hand, or finger and that time was measured by the periods of the sun, moon, and other heavenly bodies.

The Egyptian cubit , the Indus Valley units of length referred to above and the Mesopotamian cubit were used in the 3rd millennium BC and are the earliest known units used by ancient peoples to measure length.

紀元前3千年期という言葉がある

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計量の起源


計量の起源を探る
日本計量史学会

日本の物差しの主流…30センチ(30.3333…)のもの
「マガリカネ」、現代では曲尺(かねじゃく)
大工道具の指矩(さしがね)

1490(延徳二)年の「鯨の物指」鯨尺裁縫に使用するものさし
曲尺の一尺二寸五分を十等分

おまけ

尺が象形文字だというのは面白い。
それにしても、
人間は自分の身の丈でしか物をはかれない、ともいえる。
いえ、理解力の話です。
(^_^;;

はい、ことさら言うのは、自戒としてデス。