神原正明著「ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む」(河出書房新社2000年12月刊)をざっと読んだ見たのだが・・
ボス(以前の表記は「ボッシュ」森というあだ名)はレオナルド・ダ・ヴィンチ✳とほぼ同年齢で、この三幅対(トリプティーク)は1500年という時代の区切りに前後して描かれたという。
快楽をめぐるダブルイメージ、審判図として、占星術と錬金術に関連して、カトリック教会の教父たちの著作の影響、諺と言葉遊びとして、などなど、難解な絵とされ、多くの美術史家が言及していて、詳しく見ると大変なことになりそうだ‥・・
(「『快楽の園』―ボスが描いた天国と地獄」 (新人物往来社ビジュアル選書2012)の方が新しく簡潔で一般向け。
内面のリアリズムに迫った超現実の世界とする。
✳「十字架を背負うキリスト」に反映するダヴィンチのスケッチ
(キリストを取り巻きあざける男たちの相貌)
ここではとにかく、ボスの見るものが、すべて象徴であるということをざっと見て、私の現在のテーマである,キリスト教の道徳の擬人像ないしイメージ化の補足とする。 (20190823)✳ wikipedia
The Garden of Earthly Delights in the Museo del Prado in Madrid,
c. 1495–1505.
「快楽の園」(1490年 - 1500年頃、プラド美術館蔵)
開くと195×440㎝の板絵となる
トリプティーク祭壇画の形式
ボスの描く動物 や建物の持つ「植物的性格」(p30)
「快楽の園あるいはイチゴ絵」という名称
天地創造の三日目を描いたという通説と大洪水の後をえがいた(ゴンブリッチ)という説がある。
辻佐保子はダブルイメージとする。(祭壇画を開く時は天地創造の三日目で、閉じるときはノアの洪水の場面)
ゴンブリッチは左パネルの光を「虹」とする
創造主は左上の隅に追いやられている
上部には『詩篇』33‐9のラテン語
「主が仰せになるとそのように成り、主が命じられるとそのように立つ」
デューラーは1520年にブリュッセルのナッサウ家で見たはずだが、旅日記にはなんの記述もないという。(p17)
ナッサウ家が注文した可能性が高く、早くからオレンジ・ナッサウ家の所有として継承されたが、スペインの将軍アルバ公が没収という形でスペインへ。ボスの40点ある絵は、スペイン王が多く収集した。(プラド美術館が10点所蔵)
年輪年代学(デンドロクロノロジー)により、これまで単独の絵画と思われてきた四作品が一つの祭壇画の各パーツであることが分かった。・・21世紀に入りボス研究に激震が走っている。
トリプティーク祭壇画の形式 エデンの園→地上での快楽→地獄
フレンガー✳は、左翼パネルをアダムとイヴの堕落の表現ではなく、神の介在による二人の結婚の姿とした。
ファン・エイクの「アルノルフィニ夫妻像」(ロンドン)との類似。アダムは神の衣の裾につま先を触れる。神はイヴの手首をつかんでいる。
✳(Wilhelm Fraenger, 1890 - 1964)
そのボス異端説は否定されている
This staging (God blesses the union of Eve and Adam) is close to
that in the Jan Van Eyck's painting, The Bridegroom Arnolfini.
アダムの背後にある木はショーンガウアーの版画からとられたもの。南国風(ドラセナ 龍血樹・・ナツメヤシ?)
知恵の樹と蛇は池のほとりに後退(人面の岩に蛇が絡みつく)
生命の樹は生命の泉の中(サボテン?)(木のくぼみの中にすべてを見つめるフクロウがいる=古代の知恵の神ミネルヴァの鳥として復権)
Bosch vs Schongauer Dracaena(fromウィキメディア)
龍血樹
✳この植物については後ほど別サイトで改めて別に見ます
(唐草図鑑ナツメヤシに追記予定)
500人の男女がおりなす一大スペクタクル
チベットの曼荼羅図を思わせるきわめて厳格な幾何学的構成をなす。
中景・・中心部の池で水浴を楽しむ裸婦(グループ人数が1・2・4・7・12で、それぞれ年・昼夜・四季・週・月という時間の単位に合致する)の周りを男たちが動物(十二宮に関連する動物)に乗って円環運動を続けている。(永遠にたどりつけない)
卵(世界の始まりを意味する)をあちこちに隠し込んだ
老人も子供もいないアダムとイブの末裔の世界
上部(後景)・・異教の暗喩の塔
岩々は鉱物と植物が組み合わさったかのようなグロテスクな景観
下部(前景)・・100人いる 3人組になっていることがほどんど
巨大な果物がたくさん描かれる(肉欲と堕落を象徴する果実)
原罪の「リンゴ」と救いの「ブドウ」
✳この木についても後ほど改めて別に見ます。
(唐草図鑑 生命の樹)
「この地獄の世界も快楽によって支配されているが、それは人間への責め苦に代わっている。」
このイメージの霊感源は、当時巷にあふれた病人の姿に違いない。
中央パネルに登場するAとY
右翼パネルに登場するオメガの大文字と小文字を組み合わされたナイフの刻印
「始まりを意味する卵とA(アルファ)を起点として自由意志のシンボルであるYを経由して、オメガに至るという意味が図式化されている」(神原正明説)
上部の遠景・・燃えさかる街、血の海に落とされる人々
戦争に赴く騎士たちのシルエット(現実)
中央の「木男」
豚の口づけ・・この祭壇画の締めくくりとなる場面
あらためてヒエロニムス・ボスをもう少し丁寧に見ようとしてのは、中世のロマネスク修道院の、キリスト教の道徳の擬人像を見ていたせいである。ボスの絵は15世紀であるから、その300~500年の後となる。
Table of the Mortal Sins [detail: Christ].
Text reads: "CAVE CAVE DEUS VIDET"
(BEWARE BEWARE GOD IS WATCHING°
「気をつけなさい、キリストが見ている」)
人間の瞳の中に日常生活に見られる愚かな光景が映し出されるという構成
四隅には個人の最後(死)、世界の最後(最後の審判)とそれによって二分される「天国」と「地獄」
ラテン語のキャプションが書かれる
キリストの真下・・
「憤怒}(ira)
その右へ・・「高慢」(superbia)
「肉欲」(luxuria)
「怠惰」(acedia)
「大食」(gula)
「貪欲」(avarita)
「嫉妬」(invidia)
ボスの特徴:登場人物のまなざしが作る複雑なドラマ
一義的でないこと
宗教テーマの中に風俗画が息づく
ボスの見るものが、すべて象徴であること、「七つの大罪」の概要がわかったところで、ここまでとし、ロマネスク時代の「善悪の擬人像」に戻ります
。
→https://karakusamon.com/zusyo/zenaku.html