かなしいという言葉


漢字・日本文化

「愛]の訓

『字訓』白川静

うつくし
うるわし
かなし
はし
めぐし
めづ
をし


「かなしい」とよむ

渡部昇一さんの
『知的余生の方法』(2010新潮新書)から

『万葉集』大伴家持 

父母を見れば貴く、妻子を見れば、愛しくめぐし・・・ 「愛』は、哀悼の意を表するの「哀」とは語源が同じ漢語。胸が詰まって声がでなくなるような状態。

『万葉集』山上憶良

しろがねも 黄金も玉も なにせむに まされる宝 子にしかめやも 

子を見て「愛しい」、悲しい。
語源は「かなわぬ」(できない)と同じ、力およばず何にもしてやることができない 
渡部昇一さんの『知的余生の方法』(2010新潮新書)に、一生懸命勉強しているのを見て母に「かわいそうに」と言われた話。

芥川龍之介が『蜘蛛の糸』で描いたお釈迦様。救ってやろうと思っても救いようのない人間。お釈迦さまもそこに無力を見た。慈悲。
日本語のア『愛が親から子へ。お釈迦さまから人間へという方向性を持つのに対して、ラテン語音『愛』はまったく逆の方向性から生まれた
私が愛する= アモ(amo)は、子どもが「アマアマ」という(ママ)、子どもの気持ち
英語のラブ(love)と同義語である、ドイツ語のリーベ(lieve)は、英語の木の葉のリーフ(leaf)と同じ。「信ずること」の(belief)もおなじ。何か神事や信仰と結びついた木の葉に関係のあることかもしれない。
日本人は「愛」という言葉の奥底にある深い意味を、なんとなく気付いていた。だからむやみやたらと使わなかった。

2013-01-07 トラベルはトラブルと語源が一緒だという・・。語源解釈にはいろいろ問題があるだろうが、面白いので採用しておきます。

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かなし(愛・哀・悲)

白川静 『字訓』より

どうしようもない切ない感情をいう。いとおしむ気持が極度に達した状態から、悲しむ気持ちとなる

柳田国男・吉田金彦説に、感動助詞「かな」の形容詞句とする。
「かなし」という感情は繊細なものであるから、これに当たる適当な字がなく、愛・哀・悲などが用いられる。
[名義抄]に「循・傷・忌・悠・酸カナシ」とあり・・・

は後ろに心惹かれて顧みる人の形。

愛は別れに臨んで気がかりで後ろを振り返り、いとおしむ心情を示す字、

は死者を哀しむ意

には否定の意がある。すなわち国語の「かね」に当たる。
悱・誹などの字義にみられるように、心のうちにもどかしく、思うにまかせぬことを嘆く意があり、これも「かなし」の語義に近い

ここで、
曖昧という熟語の曖も昧も同じくくらいという意味だという。
部首は日で目ではない。「太陽が曇って薄暗い」
もう一本線を減らすと

噯 おくび

ここで、愛という字にかえると
「成り立ちについては諸説があるが、本来の意味は"気になって前に進めない"ことだという」・・と円満字二郎さん(「漢字ときあかし辞典」)
忘れたくても忘れられない・・・」
「根源には気になってしかたないという心の動きがある」
音:アイ
訓:まな・・愛娘
部首:心(こころ)

円満字二郎さん著「漢字ときあかし辞典」より

思わずもれるいかなしみのため息
部首が「衣」ではなく「口」なのは、本来は"悲しげな声を出す"という意味だったと考えられているから。 とすれば、"ああ"というため息を顕す古語[あわれ」を訓読みとしたセンスには、脱帽するしかない。

円満字二郎さん著「漢字ときあかし辞典」より

本来「非」には"二つに分かれるという意味があり、それに「心」を組み合わせて、"心が張り裂ける"ことをあらわすという説が有力である。

心が痛くなる‥悲痛、悲観
”他人の心をいたませるような"という意味合い‥悲運、悲壮、
人々を苦しみから救う‥慈悲

悲願・・本来は人々を救いたいと強く願うことをあらわす仏教のことば

「かなしい」と訓読みする漢字には「哀」もあるが、現在では「悲」を書くのが一般的。「哀」は、"悲しさ"を特に強調したいときや、特別な雰囲気を出したいときに使われる。

同訓異字(『字通』の付録「同訓異字」)

ここで、白川静『字通』の付録「同訓異字」のかなしい・かなしむの項から。
非常にコンパクトな解ですが、いたむという訓のある字が多いようだ・・
以下引用

哀 悽 惻 愴 
悼 慟 悲 隠(隱)

もう一字、僭(→にんべんでなくりっしんべんの字で)があるのだが、この字は「字統」に取り上げられておらず、また、文字コード表 (Windows)出てこないのではぶきます。(20160922)

は哀告。死者の衣中に祝告の器 (さい)を加える形。
は妻声。惻、愴、僭(にんべんでなくりっしんべんの字で)など悽愴(せいそう)の感をいうものに歯音の語が多い。
悼、慟は振蕩(しんとう)の状を示す形況の語。
は非声。受け入れがたい心意を含む語であろう。 

※悽愴(すさまじくいたましいこと)by広辞苑 悽愴苛烈)
振蕩(ふるえうごくこと)

この9字のうち、哀悼の意とか、惻隠の情などで、不通に組で使われているのが、4字あるが、
哀 悲はみたので、 残りのりっしんべんの字の解字をもう少し。

白川静『字統』より以下引用

 :声を震わせて哭す。
音:ドウ
訓:なく・なげく
弔問のとき慟と哭があり、死者との関係によってその礼が異なる。
声をあげ、身を震わせて泣くことといい、
とは声を呑んで泣くことをいう。
孔子が顔淵の死を弔って、思わず慟したので、従者から、「子、慟せり」と注意されている。[論語、先進]近親のものだけが、慟をする定めであった。孔子にとっては、「天、予(われ)を喪(ほろ)ぼせり」というほどの悲しみであった。

白川静『字統』より以下引用

:心痛み悲しむ 
音:ソク
訓:いたむ・かなしむ
形声。声符は 則(そく)
〔説文解字〕十下に「痛むなり」とあり、悲傷する意である。
[孟子、公孫丑(こうそんちゅう)、上]ニ、「惻隠の心は、人の端なり」とあり、人の身になって思うことをいう。

白川静『字統』より以下引用

 
音:ソウ
訓:いたむ・かなしむ
形声。声符は 倉(そう)
〔説文解字〕十下に「痛むなり」、[広雅、釈語]に「悲しむなり」とみえ、心痛み悲しむことをいう。
失意のさまを愴怳そうこう・惝怳しょうきょうといい、いたみ悲しむさまを愴悢そうりょう・愴惻そうそく・愴愴そうそう・悽愴せいそうという。
我が国のサ行音に寂寥感をもつものが多いと同じように、これらの語にも一種の音感があるのであろう。

白川静『字統』より以下引用

 
音:トウ
訓:いたむ・かなしむ・おそれる
形声。声符は 卓(たく)
〔説文解字〕十下に「懼るなり」とあり、陳・楚の間の語であるという。 斉・魯では矜(きょう)、また晋・秦では矜あるいは悼という。
[詩、檜風(かいふう)、羔裘(こうきゅう)]に「中心(こころ)是れ悼む」、[毛伝]に「動なり」とは衝動の意であろう。
[礼記、曲礼、上]に「七年を悼と曰ふ」とは夭死をいう。[方言、一]に「哀なり」とあり、人の死を哀悼する意である。

以上で、 かなしいという言葉と漢字の愛・哀・悲・悽・惻・愴・ 悼・慟・隠(隱)の字解を終えたので、おまけの四字熟語です
薪尽火滅

■1.四字熟語データバンク ・・ このサイトすごいですね♪語彙力アップ四字熟語とか!!!!!
自分を元気づける言葉になります。

それはともかく、喜怒哀楽別の、の四字熟語もありましたっけ??
このかなしみの言葉・漢字のページに関連して、なにかありましたでしょうか。それは、 心境/ 境地の中にある ものでしょうか?
感慨無量 ・・これは喜び?

哀毀骨立
母猿断腸

四字熟語辞典(漢検)を見てみたが、そうだった、 断腸

■2.四字熟語辞典オンラインというサイトの方
「薤露蒿里」(かいろこうり):人生のはかないことのたとえ
「薤露」「蒿里」は葬送の時の挽歌の曲名

■3.書き順http://kakijun.jp/
こちらの書き順サイト、スマホの表に出してます

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