古代日本語:

中西進さんのエッセイを少々深読みしてみます

ベスト・エッセイ〈2011〉
(2010年7月30日「東京新聞」夕刊)


「骨と胸」


==以下引用===========
根幹であるところの「ほね」と美しい中心であるところの「むね」
日本人が文字(漢字)をもった5世紀ごろ、日本語がどんどん中国文字の音読みことばに、代えられていったことが想像される。
日本語に外来語が入る時の三つのパターン

1.文明化(シビライズ)
2.再認識(リコグナイズ)
3.自国化 (ネイティバイズ)


古代日本語への大きな横波を受けながら、半面、日本人がなお弥生時代以来の日本語を保持しつづけたことは、日本固有の価値観を、古代人が大切に保持しようとしたものであった。
われわれの肉体の中で中国語によって変更しなかったものがある。
骨(ほね)こそ、その中心である。

「秀根」(ほね)・・・万物の基
山岳(高峰=たかね)、大地(むかし島根といった) 中国人の骨(コツ)の音はこの古代人の「ね」の信仰を犯すことができなかった。
むね(胸)は、美(ビ、み)という中国の美称が変化した「む」を根にかぶせたものらしい。
根幹であるところの「ほね」と美しい中心であるところの「むね」
二つの「ね」への信頼と礼賛
日本は5世紀に大きく言葉を変え、文明的飛躍を遂げた。それも大切な歴史だが、むしろいま私の関心は、その波におぼれなかった古来の日本的認識を検証することにある。

 

 
「大字源」より ==以下引用======
会意。意符の肉と意符の 冎  (か 頭蓋の隆骨の意)からなる。 肉中残る硬い骨の意。ひいて、「ほね」の意に広く用いる。
骨組・骨格、死者・なきがら、人柄、・品格、趣・文学作品の力強さ、 書体が鋭く、力強い
骨子=物事の要点、骨董(雑多な古い器物)骨肉(親子・兄弟など近親)
   

ほね

「大言海」より ==以下引用======
 秀根(ほね)の義か。
動物の體中にあって、全體を張り支える硬きもの。
諸器の體を張るに用いる細長木竹木など。
ホネオリの意。骨を折るとは努む、励み為す。
骨を惜しむとは、労力を厭う。
骨に染むとは、身に深く感ず。

骨仕事、骨休み

 

   
「大字源」より ==以下引用======
会意形声。意符の肉(からだ)と意符と音符を兼ねる匈(きょう、胸の意)とから成る。匈の後にできた字。
胸襟(胸の中)
 

むね

「大言海」より==以下引用=====
  生根(うむね)の約、心の原とするかと云う。
或は云う、身根の転、むね(棟)の条、参見せよ。
棟・・身根(むね)の義にて、元来身体すべての語、その中に最も重しとする胸の称となる。

 
「大字源」より ==以下引用======
形声。意符の木と、音符の艮(こん、ねもとの意=本・跟)とから成る。木の根元の意。
惹いて、物事の本源の意に用いる。
   

「大言海」より==以下引用=====
  植物の茎幹の下の土中にある部分。
もと、おこり、根元
根掘り葉掘りとは、根本より枝葉に渉る、あなぐり求むるを云う。
以上、大言海では、胸の方、美(ビ、み)という中国の美称が変化した「む」を根にかぶせた、という解はない。
根幹であるところの「ほね」と美しい中心であるところの「むね」

更新日2012年10月23日(月)

中西進著作集[六期]全36巻 
http://www.shikisha.co.jp/nakanishi/index.php

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